水頭症ってなに?

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更新日 2008-11-19 | 作成日 2007-09-14

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水頭症ってなに? 5/5

水頭症ガイドブック 基本篇


10●シャント・システムの構造・種類

 ここではシャント=VPシャントとして話していきます。
 本題に入る前に、シャントはどうして流れるのか?そして、なぜ詰まったり、いろんなトラブルの元になるのか?を、ちょっと考えてみましょう。難しそうな質問ですね。でもその答えは小学校低学年程度の算数で説明できてしまうんです。信じられない?ま、聞いてください。
 脳室内の髄液の圧を脳室内圧、シャントバルブが開く圧をバルブ圧、お腹の圧を腹圧とします。又、頭の位置(高さ)とお腹の位置(高さ)の違いによる圧(水位の違いによる圧)を水圧差としましょう。髄液を流そうとする力は脳室内圧+頭とお腹の高さの違いによる水圧(これはサイフォン効果により生じます)、一方それに抵抗して流れを止めようとするのはバルブ圧+腹圧です。すなわち実際に髄液を流す圧の差(Pと表わします)は

 P=髄液を流そうとする力-髄液を止めようとする抵抗力

  =(脳室内圧+水圧差)-(バルブ圧+腹圧)

  =脳室内圧+水圧差-バルブ圧-腹圧

髄液が順調に流れいるときはP=0に近くなるので

脳室内圧+水圧差-バルブ圧-腹圧=0

と仮定してしまえば

脳室内圧=バルブ圧-水圧差+腹圧

 どうです。ちょっと中学の数学も入りますが、できた式は小学校の算数でしょう?微分、積分なんか全然関係ないし、数学が嫌いな人だって怖くない。これが基本なんです。もっとも、実際には髄液のタンパクによる粘稠度、シャントの管の壁との間の抵抗力、バルブの位置(前頭部、後頭部)、腹腔内の管の長さなどが関与して、なんとも複雑な異次元世界の様相を呈してくるのですが、シャントの基本の理屈を考えるのには、今の式だけで充分間に合います。
 さて、寝ているときのことを考えて見ましょう。頭とお腹は同じ高さにあるので両者の水圧差は0です。今、仮にバルブ圧を5cm水柱(水で計って5cmの高さ、の意味です。以後略します)、腹圧も5cmとすると

脳室内圧=5-0+5=10cm

となり、これは寝ているときの髄液の圧としては正常範囲内です。
 それでは、起きて座ったり、立ったりするとどうなるでしょうか。自分の赤ちゃんや子供を見てみてください。頭とお腹の間は、少なくても30cmくらいはありますね。この長さがみんなサイフォン効果によって水圧差になってしまいます。すなわち、少なめに30cmと見積もっても、

脳室内圧=5-30+5=-20cm

となり、これではどう考えても起座時の髄液圧としては少なすぎます。すなわち、髄液が流れすぎているのです。これを、例えば+5cmとしようとすると、バルブ圧を30cm分にしなければなりません。でも、そうしたら今度は寝ているときに全然流れない、ということになってしまいますね。一つのバルブで2役を果たすのは無理なのです。
 神様が創ってくれた人間の体の自然の摂理の偉大さと、人間の作ったシャントの間には、悲しい差があるのです。でも、人間もその差を埋めるべく一生懸命努力してきました。サイフォン防止効果付きバルブ、自動流量調節式バルブ、あるいは圧可変式バルブ……です。前置きというか前提がくなってしまいましたが、ここでは、この起きているときと寝ているときの差を埋めるべく、様々なバルブが考案されていることをご理解ください。
 さて、本題に入ります。シャントシステムは大きく分けて3つの要素からできています。シャントバルブ、脳室端のカテーテル(管)、腹腔端のカテーテル(管)、です。ひとつずつ紹介していきましょう。

▼シャントバルブ

 バルブはシャントシステムの中心をなすものです。基本的には髄液を一定の圧で流す弁(バルブ)機構と髄液を貯める貯留槽からなります。様々な種類がありますが、大きく分けて髄液の流量ををバルブの圧によって管理しようとする圧管理型バルブと、髄液の圧により自動的に流量を調節する流量調節型バルブに分類されます。

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・圧管理型バルブ

 圧管理型バルブでは一般的には圧の変動範囲によって低圧、中圧、高圧の3種類がそろっているのが普通です。例えば、低圧では髄液の流量によって15-50mm水柱の範囲で圧が変動し、中圧では50-90mm水柱、高圧では90-150mm水柱、といった具合です。この場合、どの圧のバルブを選ぶかは手術前の髄液の圧、手術までの経過、脳室の大きさ、年齢などを考慮して主治医が決めます。

 一方、先ほど述べた様に頭とお腹の高さの違いによる水圧差が原因で生じるサイフォン効果は、バルブの圧を変えても予防は困難と考えられる場合には、抗サイフォン装置を付けた圧管理型バルブを使うこともあります。抗サイフォン装置では、髄液を薄い膜で覆われた狭い通路に流します。通常の、高い脳室内圧によって髄液が押し出されて流れている状態では髄液は陽圧(プラスの圧)を保っています。この陽圧によって髄液は抗サイフォン装置の膜を押し開き流れていきます。もしこの状態で体を起こすと、頭の位置が高くなりサイフォン効果が生じて、相対的に陰圧(マイナスの圧)となったお腹側に髄液は急激に吸い込まれていきます。しかし、陰圧で髄液が引き込まれる状態では、抗サイフォン装置を使用しているとその膜が陰圧により吸い寄せられ髄液の通路を防ぐように働き、髄液の流れを遮断します。すなわち、サイフォン効果が予防されるわけです。誰の発明かは知りませんが、世の中頭のいい人がいるもんですね。でも、人間の体は計算通りにいかないところがミソで、抗サイフォン装置自体の抵抗や、周辺に線維性の癒着が起きたり、とかで髄液の流れが不十分にったり、詰まる可能性が高くなるのが泣き所です。

・圧可変式バルブ

 最近になり、圧調節型バルブにもう一種類、新しい仲間が増えました。圧可変式バルブ、です。磁気を用いてバルブの調節を行い、髄液の流量を調節しようとするものです。もちろんサイフォン効果そのものを予防することはできず、限界はありますが微妙な圧調節を要する水頭症や、寝ている時間が多く比較的に脳室内圧に髄液の流量が左右されるような水頭症には期待できると思われます。ただ、電化製品・携帯電話など多くの磁場に囲まれて生活していることや、軽い打撃でも設定圧が変動することを考えると日常生活上、いろいろ注意が必要になります。

・流量調節型バルブ

 流量調節型バルブの歴史も比較的新しいものです。このタイプのバルブは髄液の圧によって弁機構部の髄液の流れる断面積が自動的に変化し、脳室内圧をできるだけ一定の範囲内で調節できるように作られています。大変便利と思うか、あなた任せ(髄液圧任せ)で無責任、と思うかは非常に意見の別れるところですが、これまでの圧調節型バルブとは異なった考えで生まれてきたバルブであることに違いはありません。一つのバルブで、全ての水頭症に対応可能な点は多いに評価されますが、やはりサイフォン効果は完全には予防できないことや、低圧性の水頭症では充分な髄液の流量が得にくいことなど問題も残されています。

 完全なバルブというのはなく、どんなバルブにも一長一短があります。要は、自分の使っているバルブが何であれ、髄液がきちんと流れ合併症なく生活できていればいいわけです。問題になることが多いサイフォン効果も、髄液が流れていてはじめて問題になるわけです。抗サイフォン装置が付いても、圧調節できても髄液が流れていなければ話しになりません。そんなわけで、今でも単純な低圧バルブは根強い人気があるのも事実です。髄液はきちんと流れ、かつ流れ過ぎない、という相反する条件の接点を目指したバルブ開発の道はまだまだ先は長そうです。



▼カテーテル(管)

 さて、バルブの次は、それにつなぐカテーテルについてご説明します。

・脳室端カテーテル

 脳室内に挿入し、バルブの脳室端と接続される管です。長さは頭の大きさ、前方から入れるか、後方から入れるかにより調節します。通常は先端が流線型になった管ですが、脳室が狭くなったときに脳室壁と癒着して詰まることを予防するために羽の様なものを付けた型もあります。この場合、脈絡叢が絡むと詰まったときに引き抜くのが大変危険となります。

・腹腔端カテーテル

 バルブの腹腔端に接続し、皮下を通ってお腹の中に挿入される管です。一般には先端に細隙状の切れ込みが入れてあり、この部分でも圧調節をするようになっています。しかし、実際問題としてはこの細隙は詰まりの原因になることが多いので切断してしまうことも少なくありません。以前は、管がお腹の中で折れ曲がり詰まることを予防するためにらせん状に針金を入れた管が使われたことがあります。この管は、固いために逆に腸などに穿孔することがあり(特に乳幼児の場合)、最近は殆ど使われなくなりました。いいと思った工夫も、裏目に出てしまったわけです。

11●シャント合併症

 「水頭症に対するシャント手術の発展の歴史は、とりも直さずシャント合併症予防の歴史である」という著明な小児神経外科医の言葉があります。"The best shunt is no shunt"(シャントなしで治療できれば最善)といってみても、神経内視鏡(第3脳室底開窓術)で治療できる一部の患者さんを除けば大部分の水頭症の治療は今でもシャント手術しかないことも事実です。
 シャント手術に伴う合併症は年齢が低いほど(乳幼児)あるいは対照的に高齢であるほど起きやすいことはよく知られています。又、シャント機能の障害(一般に"シャント不全"と呼びます)は術後数ヵ月以内に発生する率が最も高く、発生率は最初の1年間が25-40%、以後は毎年約4-5%の割合で発生するといわれています。
 シャント合併症は種類も様々で全部を話すことは困難ですが、主なものを順を追って話してみます。

・シャント閉塞

 シャントが詰まることはシャント合併症の中でも最も多いもので、特に小児ではシャント合併症の約半分近くになります。
 脳室端が原因で起きる場合はしばしば脈絡叢が脳室端の管に絡まって閉塞を起こすことがあります。他にも血腫や、反応性(異物反応?)に形成された膜様組織によって脳室端の管が閉塞することがあります。
 バルブの弁機構に脳組織の一部が詰まったり、軽い感染を契機に膜様物が形成されてシャントが閉塞することがあります。この様なことは、バルブの機構が複雑に進化したものほど起こしやすい傾向にあります。
 腹腔端はシャント閉塞の原因としては一番多いものです。多くの場合、管の先端部に膜様組織が形成されて髄液の流出を障害しています。又、単純に成長に伴い管の長さが足りなくなりシャントが閉塞する場合もあります。
 他にも、脳室端とバルブ、あるいはバルブと腹腔端の接続がはずれてシャント閉塞となることも意外とあります。シャントシステムが長期にわたり入っている場合には、シリコンの劣化により管やバルブが断裂することも報告されています。
 シャントが詰まれば、当然吐いたり、機嫌が悪くなったり、ひどい時には意識も悪くなったりとします。このあたりの症状については『水頭症の症状』の章を参考にしてください。シャントシステムが入っている場合には、時に管に沿って皮膚が盛り上がってくることがあります。腹腔端が詰まると、腹部から胸部、更に頚部にまで盛り上がりが及ぶことがあります。これば、腹腔内に流れなかった髄液が管に沿ってその周囲を逆流するために生じるものです。又、腹腔内に嚢胞を作って、お腹が膨れてくることもあります。脳室が大きく、脳の発達が悪い場合には頭皮下に髄液が貯留することもあります。
 シャント閉塞が疑われると、通常はシャントバルブの貯水槽に細い針を刺し、造影剤を注入してシャント閉塞の部位を確認します。同時に髄液を採取して炎症(感染)を生じていないかも検査します。シャント閉塞部位が同定できたらシャント再建術を行います。感染を伴わない単純な閉塞であれば、閉塞部位の手術のみで大丈夫です。
 ここでもう一度注意して欲しいことは、シャントが閉塞する場合は、感染が関与していることが多い、ということです。ごく軽い、検査してもわからないくらいの感染が原因になって反応性に膜様物を管の周りに作ることは珍しくありません。又、感染による閉塞でなくてもシャントが閉塞し髄液が貯留することにより2次的感染を生じる可能性もあります。シャント不全が発生した場合には常にシャント感染を念頭にいれて治療に当る必要があります。

・髄液の過剰排出による合併症

 シャント閉塞の対極をなす合併症です。小児に発生することもありますが、成人特に高齢者の特発性水頭症でしばしば問題となります。バルブ圧の設定が低すぎたり、サイフォン効果が強い場合に生じます。症状としては起立時の頭痛が知られていますが、頭蓋内圧が低下することにより脳表に髄液や血液が貯留することもあります(硬膜下腔液貯留、硬膜下血腫)。ひとたびこの様な状態になると、治療は難儀します。
 髄液が過剰に排出されると、脳室は大変小さく狭くなります。この様な状態を『細隙脳室(slit ventricle)』と呼びます。細隙脳室では、脳室が大変狭く両側の脳室壁がくっつくくらいになるので、シャントの脳室端の管が詰まり易い状態になっています。一般にシャントしていると髄液の拍動による圧の変化がそのままシャントの方に逃げてしまい、脳の柔軟性は失われています。特に細隙脳室では脳は固くなっていることが多く、ちょっとした脳室内の髄液量の増加で急激な脳圧の増加を生じます。この様な状態を『細隙脳室症候群(slit ventricle syndrome)』と呼びますが、急激な頭痛、時に急激な意識障害を生じるので注意が必要です。
 小児、特に乳幼児期には頭蓋骨はまだ癒合していないので、髄液の過剰排出が生じると脳室の縮小に伴って頭囲も小さくなります。乳児ではシャント後に頭蓋骨どうしが重なりあうことも珍しくありません。多くの場合は自然に整復されていき心配はありませんが、脳の障害が強い小児の場合には頭蓋が小さいまま癒合して2次的な小頭症になることもあります。又、頭蓋骨の変形が強く残り美容的な問題を生じることもあります。

・シャント感染

 シャント感染は、シャントが人体にとって異物でできている以上避けられない問題です。シャント感染の殆どは、シャント挿入後(手術後)の2カ月以内に発生しています。又、年齢が若い程シャント感染率が高いことも知られています。現在、世界のトップレベルの施設でもシャント感染率は5%前後あり、他は推して知るべし、です。
 シャント感染を生じる病原菌の主なものは皮膚に常在するものです。最も多いのは表皮ブドウ球菌でシャント感染の約40%を占めます。続いて黄色ブドウ球菌が約20%で、以下様々な病原菌がシャント感染を生じます。
 シャント感染を生じた場合の治療は、全身的な抗生剤の投与、シャントバルブからの直接抗生剤注入、などがありますがそれだけでは不十分な場合が殆どです。そこで一般的にはシャントの腹腔端を体外に出す処置を施し、髄液を清潔な状態で体外に排出するようにまずします(これを外ドレナージといいます)。そして髄液が正常化して炎症(髄膜炎)の所見がなくなったところでシャントシステム全体を入れ替えるのが普通です。なぜならば、髄液がどんなにきれいになっても、一度シャント感染を生じたシャントシステムのどこかに病原菌が付着している可能性があるからです。最近では、シャントの管の内面を特殊加工して病原菌が付着できないくらい極めて滑らかにした管が販売されるようになりました。
 直接感染を生じたわけでなくても、例えば乳幼児の柔らかい皮膚を破ってバルブの一部が露出してしまったり、原因不明でもシャントの管、バルブ周辺に炎症を疑わせる発赤が生じた時にもシャント感染に準じて治療します。
 シャント感染との闘いはまだまだこれからの課題です。Doticon_al_S.png

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