水頭症ってなに? 3/5
水頭症ガイドブック 基本篇
6●水頭症の症状
水頭症の原因と同じく、水頭症の症状も年齢とともに違ってきます。なぜならば、ヒトの頭の骨は生まれたばかりのときにはまだ固まっていませんが、成長とともに段々と骨化して固くなるためです。
そのため、乳児期には水頭症で脳の中に髄液が貯まるとその圧により頭蓋骨が押されて頭がどんどん大きくなっていきます。頭の圧が高くなっても、その高くなり具合は低いのです。そのため、頭が大きいことを除けば、見たところは元気でニコニコしている、なんてこともあります。
ところが、脳の成長も一段落し頭蓋骨も固まった頃=幼児〜学童の時期に水頭症になるとどうなるでしょうか?脳室内に髄液がたまってきて圧が高くなっても頭蓋骨は簡単には大きくなってくれません。水頭症が進むにつれ脳の圧は高くなってきます。そのため、頭痛、嘔吐などの症状で発症するのが普通です(これは成人した大人も同じです)。
我慢強い子の場合は、こうした症状に親が気がつかないこともあります。しかし、脳圧によって眼の神経が圧迫されたり、眼の神経にむくみがきて黒板の字が見えにくくなったといったことから水頭症だとわかることもあります。
水頭症の症状も年齢とともに段々と変わってくることを覚えておいてください。シャント(後述します)が詰まったときの症状も変わってきます。年長児では、極端な話、急速に意識が悪くなる場合もあります。そういう時は夜中でも緊急にシャントの入れ替え手術をしなければいけません。
以下、年齢毎に、代表的な症状を挙げてみます。
・未熟児
呼吸が時々止まる
脈がゆっくりになる
大泉門(前頭部にある骨と骨の隙間が拡がっているところ)が盛り上がり、張っている
頭皮の静脈が拡張し、浮き出ている
急速な頭囲の拡大
・乳児
周囲の刺激に対して敏感になり、すぐに泣く
イライラしている
嘔吐
意識がボーっとしている
頭が大きくなる
首の座りが不安定
「落陽現象」(眼球が上を向けなくなり、下に向いた眼球が沈む太陽のように見える現象)
・幼児・学童
頭痛
嘔吐
イライラしている
意識がボーっとしている
物が二重に見える
視力低下
足がつっぱる
身体のバランスがとれなくなる
勉強の成績が低下
7●水頭症の治療
さて、では、この水頭症をどうやって治療するか、です。
現在では、水頭症に対しては外科的治療が主流です。いくつかの手術法がありますが、これらに到達するまでの経緯は次章「水頭症治療の歴史」を参考にしてください。
水頭症に対する手術の代表は「シャント」(shunt)です。
シャントとは「短絡」という意味で、脳で吸収されなくなった髄液を身体の別の場所に管で短絡させて吸収させようとするものです。
短絡先として最もよく使われるのはお腹です。脳室とお腹を結ぶシャントを正式には「脳室腹腔短絡術(シャント術)」と呼びます。英語でいうと"ventriculo-peritoneal shunt"、略して「VPシャント」と日本でもよく呼ばれます。
これとは別に、脳室と心臓をつなぐシャント術もあります。お腹の大きな手術をしたことがあったり、シャントに使うチューブからの感染によって腹膜炎を起こしたり、あるいは管のお腹の方が何度も詰まって、もう新たにを管を入れるところがなくなったりしたときには腹腔へのシャントができません。この場合は、首のところの静脈から心臓に管を入れて髄液を血管系(静脈)に戻す手術を行います。これは「脳室心房短絡術」(ventriculo-atrial shunt: VAシャント)と呼ばれます。今から3〜40年くらい前は、VAシャントが中心でした。しかし、なんらかの感染を生じると血管が詰まったり、あるいは血管を介して感染が全身に拡がり、時にはそのため腎臓に重篤な機能障害を生じて命取りになったりすることがありました。ですから、今どきにVAシャントを使うのは特別な時だけ、と考えて下さい。
シャントを入れることによって頭の圧が下がってくると、それまでボーッとしていたり元気のなかった子が、目に見えてシャキッとしてくることは、医者としてよく経験することです。よく僕らは語呂合わせで「しゃんと(ちゃんと)シャントしてしゃんとさせよう」なんて会話をよく交します(下手な洒落ですが……)。ちょっと不謹慎ですかね?
まあ、それはともかく、シャントが水頭症の治療に大きな役割を果たしたことはいうまでもありません。しかし、一方で、シャント手術にまつわる様々な合併症が患者さんを一生苦しめることも事実です。アメリカの脳神経外科の世界では、"Once shunt, always shunt."という言い回しがあります。「一度シャントをいれたら、一生シャントをはずすことはできない」という意味です。水頭症そのものは悪性の病気ではないのに、シャントを入れたら、それがいつ詰まるか、という問題を、常に心配していなければなりません。特に患者が女性の場合には、妊娠時にシャントの機能が悪くなることもあります。ですから、シャントなしで水頭症を治療することは水頭症に携わる医療関係者みんなの夢でした。
そんな夢を実現させてくれたのが、「内視鏡的第3脳室底開窓術」という新しい手術法です。手術では、内視鏡で覗きながら第3脳室の底に穴をあけて脳室内に貯まっていた髄液を脳表に流れるようします。いわばバイパスをつくるわけです。バイパスを通過した髄液は正常の循環路に入り吸収されていきます。日本でも、この手術は、この5年ほどのあいだに急速に広まってきています。経験のある脳神経外科医の手によって手術されれば、まず合併症もなく、安全に行えます。
しかし、残念ながらこの方法は全ての水頭症に行える手術ではありません。この手術の恩恵にあずかれるのは、正常の髄液の循環路が障害された閉塞性水頭症の患者に限られます。髄液の吸収が障害されている交通性水頭症ではやはりシャントが必要なのです。
シャントの具体的な種類や、合併症については、また後で述べることにします。



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